大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行コ)71号 判決 1992年9月24日

静岡県伊東市湯川一丁目一二番一六号

控訴人

北沢治雄

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

田中晴男

静岡県熱海市春日町一丁目一番地

被控訴人

熱海税務署長 石田尚

右指定代理人

武田みどり

津田真美

伊藤久男

松井運仁

右当事者間の課税処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する(ただし、原判決主文第一項を「本件各更正処分の取消しを求める訴えのうち、昭和五三年分一八四万八二四五円、昭和五四年分三五四万五六六二円及び昭和五五年分三五七万七一二七円の各総所得金額を超えない所得金額に係る部分につき取消しを求める部分の訴えを却下する。」と更正する。)。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立て)

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和五七年三月一三日付けで行った

(一) 昭和五三年分以後の青色申告の承認の取消処分

(二) 昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分

は、いずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

(主張)

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏六行目の「付」を「付け」と、同四枚目裏九行目の「申立」を「申立て」と、同一〇行目及び同五枚目表二行目の「付」を「付け」と、同四行目及び六行目の「決定」を「処分」と、同八行目の「取消」を「取消し」と、同裏二行目の「手続き」を「手続」と、同五行目の「本件原告の」から同八行目の「訴えは」までを、「本件各更生処分の取消しを求める控訴人の訴えのうち昭和五三年分一八四万八二四五円、昭和五四年分三五四万五六六二円及び昭和五五年分三五七万七一二七円の各総所得金額を超えない所得金額に係る部分につき取消しを求める部分の訴えは」と改める。

2  原判決六枚目表六行目、八行目及び一〇行目の「決定」を「処分」と、同裏五行目の「レジペーパー」を「レジスター・ペーパー(以下「レジペーパー」という。)」と、同一〇行目の「適示」を「摘示」と、同七枚目表四行目の「には」から同行目の「入金」までを「においては、取引上の小切手による入金が被控訴人の妻の旧姓を用いた預金口座には記入されているのに、右現金出納帳にはこれに対応する売上金額」と、同裏末行の「なしうる」を「行使し得る」と、同八枚目表五行目の「ところ」を「である。そして」と、同九行目の「決定」を「処分」と、同末行から、同裏一行目にかけての「応じない」を「応じなかった」と、同六行目の「決定」を「処分」と、同八行目から同九枚目表三行目までを次のとおり改める。

「(二) 本件青色申告取消処分がなされたのは同処分の通知書が控訴人に送達された昭和五七年三月一三日であり、本件各更正処分がなされたのは右各処分の通知書が控訴人に送達された同月一五日であるから、本件各更正処分が本件青色申告取消処分の後になされたことは明らかである。」

3  原判決九枚目表一〇行目の「とおりである」の次に「(金額に付した△は損失であることを示す。)」を、同一四枚目表一〇行目、末行、同裏四行目、同一五枚目裏八行目及び同一六枚目表一行目の「算出所得」の次に「金額」を加え、同裏一行目の「について」を削り、同八行目の「売上原価を」から同末行目の「した」までを「資料としての信頼性を確保するため別紙「同業者の抽出基準」のとおりの基準により、売上原価の額が控訴人の売上原価の額の二分の一を超え二倍以下であり、かつ、靴の売上原価の額が売上原価の総額の過半数を占める同業者を抽出した」と、同一七枚目表六行目の「事業所得額」を「事業所得金額」と改め、同七行目の「所得」の次に「金額」を加え、同裏九行目から同一八枚目裏三行目までを次のとおり改める。

「 控訴人の妻名義の預金口座への小切手による入金は、控訴人が取引先から代金支払のため受領した小切手を専従者給与及び生活費の支払のため妻君代に交付したことによるものであるが、右小切手を受領した分の売上げについても取引先に商品を売った都度レジペーパーに売上金額が記録され、現金出納帳にも他の売上金額と合計して記載されているから、現金出納帳に売上げの記帳漏れはない。現金出納帳に日々の個々の取引による売上げの記載がないことについても、控訴人が保存しているレジペーパーには日々の売上げの合計金額が記録され、その金額が現金出納帳に記載されている。また、専従者給与又は生活費を君代に渡した都度現金出納帳に出金の記帳をしてはいないが、月末には精算して帳簿の記載と現実の支払額とを一致させているから、現金出納帳の正確性は十分に確保されている。したがって、控訴人の現金出納帳は、青色申告者が備えるべき帳簿としての正確性についても一般の水準を優に超える内容のものということができる。

仮に、控訴人の現金出納帳に不備があったとしても、控訴人が取引を隠蔽又は仮装したことはなく、その不備の程度は軽微であって、控訴人の現金出納帳についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるとはいえない。」

4  原判決一八枚目裏九行目の「ところ」を「にもかかわらず」と、同一九枚目表一行目から二行目にかけての「あるところ」を「あるが」と改め、同六行目の「と」の次に「の」を加え、同七行目の「預金には生活費も」を「預金口座に入金された小切手の金額には生活費の支払分も」と改め、同行目の「のみ」を削り、同裏二行目及び六行目の「決定」を「処分」と改め、同二〇枚目表一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 本件青色申告承認取消処分と本件各更正処分は同日付けでなされており、青色申告の承認取消処分が更正処分に先立って行われたものということはできないから、本件各更正処分の手続には瑕疵がある。」

5  原判決二〇枚目表一〇行目の「推計課税する」を「推計課税を行う」と、同裏二行目から三行目にかけての「記載について」を「各金額」と、同三行目から四行目にかけての「記載については」を「各金額のうち」と、同二二枚目表六行目の「ところ」を「が」と、同末行の「同業者の平均利益率」を「同業者比率」と、同裏三行目及び同四行目の「売り上げ」を「売上」と、同五行目の「できず」から七行目の「推計」までを「できないから、右の同業者比率によって控訴人の所得金額を推計すること」と、同末行の「本件各更正処分、右処分に対する異議申立てについての決定、右決定に対する審査請求についての裁決及び本件訴訟において、それぞれ異なる同業者比率を採用し、これに基づいて本件係争各年分の控訴人の売上金額及び一般経費につき様々な金額を主張しており」と、同末行の「差引いた」を「差し引いた」と改める。

(証拠関係)

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件各更正処分の取消しを求める訴えのうち、控訴人の確定申告に係る総所得金額を超えない所得金額の部分の取消しを求める部分の訴えは訴えの利益がなく却下すべきであり、その余の請求部分はいずれも理由がなく棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二四枚目四行目の「取消」を「取消し」と、同五行目の「本件各訴え」から同八行目の「されるべきである」までを「被控訴人の本件各更正処分の取消しを求める訴えのうち、控訴人の各年度の確定申告に係る総所得金額を超えない所得金額の部分の取消しを求める部分は、訴えの利益がなく却下すべきである」と改める。

2  原判決二五枚目表九行目の「されてない」を「されていない」と、同裏三行目から四行目にかけての「一五〇条」を「第一五〇条第二項」と、同五行目から六行目にかけての「ところ、右記載は」を「と解すべきである。そして、右のような本件青色申告承認取消処分の通知書の記載は」と、同八行目の「摘示」と、同九行目の「この点については」から同末行の「である」までを「本件青色申告承認取消処分には所得税法第一五〇条第二項の違反はないというべきである」と改める。

3  原判決二六枚目表二行目から五行目までを次のとおり改める。

「(一) 成立に争いのない甲第一号証、原審証人和田広の証言により真正に成立したものと認められる乙第六、第七号証、原審証人和田広、同北沢君代、同富岡幸子の各証言(ただし、証人北沢君代、同富岡幸子につき後記採用しない部分を除く。)及び原審における控訴人本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。」

4  原判決二六枚目裏六行目の「なしに」を「をすることなく」と、同二七枚目裏一行目から同五行目までを次のとおり改める。

「 和田は、控訴人が約二時間を限度とすることを求めたので、その時間の範囲内で控訴人から提示を受けた総勘定元帳により控訴人の売上げ及び仕入れの各取引金額等を調査し、次回の協力を要請して辞去した。」

5  原判決二七枚目裏八行目の「預金及びその」を削り、同末行の「及びその後、」を「以降」と、同二八枚目表四行目の「受取」から同五行目の「ものを」までを「取引先から受領した小切手を専従者給与の支払のため妻に交付し、これを」と、同裏二行目の「同年三月八日」から同八行目の「得たが、」までを「控訴人の申立てを書面に記載するため、同年三月八日控訴人方店舗を訪れ、和田が控訴人に改めて質問をして、取引先から受領した小切手は売上げに計上されており、取り立てられた小切手金が石井君代名義の預金口座に入金されているのは、控訴人が妻君代に対し専従者給与の支払のため小切手を交付したためである旨の控訴人の説明を受け、右渡辺がその場で右問答を書き取って質問てん末書を作成し、和田らは、右質問てん末書は上司に報告するために使用するものであることを説明して控訴人に読み聞かせた上、同書面に控訴人の署名、押印を得た。」と、同八行目の「顛末書」を「質問てん末書」と、同末行の「いたし」から同二九枚目表四行目までを「いた。しかし、その時点までに、控訴人は、和田らに対し、妻への小切手の交付の趣旨が専従者給与のほかに生活費をも含むものである旨の説明をしたことはなかった。」と改め、同裏一行目の「申告」の次に「を」加え、同五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 前掲証人北沢君代、同富岡幸子の各証言及び控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用することができない。」

6  原判決二九枚目裏六行目の「原告に対して」から同七行目の「いるうえ」までを「事前の通知をすることなく控訴人方店舗に赴き、税務調査に臨んでいる上」と改め、同八行目の「質問顛末書」から同一〇行目の「また」までを削り、同三〇枚目表一行目の「その」から同四行目から五行目にかけての「なり得ず」までを「説明してはいないが、これらの点は右税務調査を違法とすべき事由とはならず、右質問てん末書作成の経緯にも問題とすべき点はないし」と、同八行目の「事実」を「証拠」と改める。

7  原判決三〇枚目表一〇行目から同三三枚目裏一〇行目までを次のとおり改める。

「(一) 前掲甲第一号証、乙第六、第七号証、前掲証人和田広、同北沢君代、原審証人小原彦之の各証言(ただし、証人北沢君代につき後記採用しない部分を除く。)及び原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(1)  現金出納帳の記載状況

控訴人の現金出納帳の記帳は控訴人の妻君代が担当していたが、同女は家事の外店頭での客への応対にも当たっていた上、本件係争各年当時大動脈閉鎖不全を患っていて体調が悪かったため、毎日の記帳を実行することができず数日分の記帳を溜めることもあり、現金残高は、日々の残高は記載せず、各ページの冒頭と末尾の二箇所に鉛筆で記載するのみであり、また控訴人が仕入先への支払によって受領した領収書を同女が数日後に発見して後れて記帳することもあった。このようなことから、本件各係争年当時の控訴人の現金出納帳においては、記帳の日付けが前後している部分が少なくない。さらに、本件各係争年当時、控訴人も、妻君代も、現金出納帳上の現金残高と手持ちの現金有高の照合をほとんどしていなかった。

(2)  小切手の取扱い

控訴人が販売した商品の代金の支払のため小切手を受領した場合に、現金出納帳上特に小切手による収入があった旨の記載はせず、また、その取立ては石井君代名義の預金口座に入金する形で処理していたが、右入金のあった日に現金出納帳にその旨の記載もしていなかった。

控訴人は和田らによる調査を受けた当時から、右小切手による収入は現金出納帳上日々の売上代金中に含めて記載している旨申し立てていたものの、右主張を裏付ける資料を何ら提示しなかったため、和田らは控訴人の主張を正当と認めなかった。

控訴人は、また、和田らに対し、石井君代名義の預金口座で取り立てた小切手は、妻君代に専従者給与又は生活費の支払として交付したものである旨申し立てていたが、現金出納帳には小切手の振出しの日から入金の日までの間に専従者給与又は生活費の支払をした旨の記載がない場合が少なくなく、さらに昭和五三年五月の場合のように、現金出納帳には専従者給与又は生活費の支払としては一〇万円の生活費が支払われた旨の記載しかないのに、石井君代名義の預金口座では右金額を超える一三万三九四〇円の小切手の取立てがされていることもあった。

前掲証人北沢君代の証言及び控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用することができない。

控訴人は、専従者給与又は生活費を妻君代に渡した都度現金出納帳に出金の記帳をしてはいないが、月末には精算して帳簿の記載と現実の支払額とを一致させている旨主張し、右北沢君代の証言及び控訴人本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、右供述は前記認定事実に照らし到底採用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二) 以上の事実によれば、本件各係争年当時において、控訴人の現金出納帳上の現金残高の記載と日々の現金有高が一致していたとはいいがたく、また、右現金出納帳上の日毎の売上高の正確性を認めるに足りる十分な資料もない上、月末には現金出納帳の記載について正確に精算が行われていたことを認めるべき証拠もないので、控訴人の現金出納帳にはその記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるものといわなければならない。」

8  原判決三四枚目表二行目の「決定」を「処分」と、同行目の「構成員に」から同四行目の「認められない」までを「構成員である控訴人を差別し、民商を破壊する目的のためにされたものであることを認めるに足りる証拠はない」と改め、同五行目の「前記」から同七行目の「それによっても、」までを削り、同末行の「取り消す」と改める。

9  原判決三四枚目裏七行目から同三五枚目表四行目までを次のとおり改める。

「 本件青色申告承認取消処分及び本件各更正処分がいずれも昭和五七年三月一三日付けで行われていることは当事者間に争いがない。しかし、これらの処分は控訴人に通知がなされた時に効力が生ずるものというべきであるが、成立に争いのない乙第一三、第一四号証によれば、本件青色申告承認取消処分の通知書は昭和五七年三月一三日に、本件各更正処分の通知書は同月一五日に控訴人に送達されたことが認められるから、本件各更正処分が本件青色申告承認取消処分の後になされたことは明らかである。したがって、本件各更正処分に控訴人の主張をするような手続上の瑕疵はないものというべきである。」

10  原判決三五枚目表末行から同三六枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「(2) 昭和五五年分の不動産所得の必要経費が一五一万五一五二円であることは、当事者間に争いがない。

被控訴人は右不動産所得の総収入金額は八四万五五〇〇円であると主張し、甲第九号証(異議決定書)には右主張に沿う記載があるが、右記載にはその根拠となるべき資料による裏付けがないから直ちに採用することはできず、他に昭和五五年分の不動産所得につき控訴人の主張する三九万九〇〇〇円を超える総収入金額があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、昭和五五年分の不動産所得金額は、控訴人の主張するとおり、右三九万九〇〇〇江から必要経費の一五一万五一五二円を控除した一一一万六一五二江の損失と認めるべきである。」

11  原判決三七枚目表二行目の次に行を改めて次の通り加える。

「 もっとも、成立に争いのない乙第一二号証、原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第二九号証の一ないし一一及び前掲証人小原彦之の各証言によれば、控訴人は国税不服審判所長に対する審査請求の段階になって、控訴人の現金出納帳の真実性を立証するため昭和五三年一月から一二月までの毎日の売上げを記録したレジペーパーを提出したことが認められるが、右レジペーパーには日毎の売上金額の合計額が記録されているのみで日々の個々の取引の明細の記録はなく、右レジペーパーに記録された金額の中に控訴人が顧客から受領した小切手の金額が含まれているかどうかを明らかにすることはできない。したがって、右レジペーパーによって控訴人の現金出納帳の真実性を認めることはできないものというべきであるから、右レジペーパーの存在は右結論を左右するものではない。

また、甲第五号証の一、二は、前掲証人富岡幸子の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果によれば右現金出納帳の記載をまとめたものにすぎないことが認められるから、右甲号証によっても控訴人の事業所得金額を確定することはできないものというべきである。」

12  原判決三七枚目表六行目から同同三九枚目表一〇行目までを次のとおり改める。

「a 昭和五三年分の売上原価について

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるので真正に成立したものと推認すべき乙第一ないし第四号証の各一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる度を第一ないし第四号証の各二によれば、昭和五三年分売上原価の内訳中、川崎商事株式会社(関連会社株式会社フォーカスを含む。)、共和産業株式会社、スタンダード靴株式会社及び柳原商事株式会社からの仕入金額は、それぞれ一三九四万五四二七円、一一五万九四六〇円、一一六万二八三〇円及び一〇三万九〇五〇円であることが認めれ、原審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができず、甲第一四号証の一ないし二九、第一五号証の一ないし一二、第一七号証の一ないし五、第一八号証の一ないし一八、第一九号証の一ないし七、第二一号証の一ないし一二、二三号証の一、二によっては右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右仕入先金額を除く仕入金額が二六七八万六八五〇円であることは、当事者間に争いがない。

したがって、昭和五三年分の売上原価の合計額は四四〇九万三六一七円となる。

b 昭和五四年分の売上原価について

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるので真正に成立したものと推認すべき乙第五号証の一、原審証人宮嶋洋治の証言により真正に成立したものと認められる同号証の二によれば、昭和五四年分売上原価の内訳中、田辺商事株式会社からの仕入金額は七〇万六七一〇円であることが認められ、原審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右仕入先金額を除く仕入金額が四一一九万一五七七円であることは、当事者間に争いがない。

したがって、昭和五四年分の売上原価の合計額は四一八九万八二八七円となる。

c 昭和五五年分の売上原価が四八五九万二九九八円であることは、当事者間に争いがない。

13  原判決三九枚目裏一行目の「のうち」を「は」と改め、同四〇枚目表一行目及び七行目の「実額」の次に「による」を、同行目の「認定」の次に「を」を加え、同裏一行目の「平均」を削り、同二行目から三行目にかけての「平均」を「一般」と、同五行目の「推認するものである」を「推認している」と改め、同四一枚目表一行目の「被告の」から同二行目の「ついては、」までを削り、同七行目の「沼津、」の次に「下田」を加え、同裏五行目の「認定」の次に「の」を加え、同七行目の「条件を満たす者」を「三条件のすべてを満たす者を抽出し、右業者」と改め、同一〇行目の「報告」の次に「をすること」を、同末行の「各署長は」の次に「名古屋国税局長に対し」を加え、同四二枚目表一行目から同四四枚目表六枚目までを次のとおり改める。

「抽出した別表(一)記載の合計七名の同業者について求められた数値を報告したこと、右通達による同業者の抽出は、公務員の日常反復継続して行われる業務の遂行の一環として行われ、しかも右通達に示された条件に適合する者を機械的に選定する作業の結果によるものであって、右同業者の抽出に作為の介入するおそれはなかったこと、右七名の同業者の売上原価の売上金額に占める割合は、昭和五三年分が最高八二・三五パーセントから最低六五・〇八パーセント、昭和五四年分が最高七八・五一パーセントから最低六七・一五パーセント、昭和五五年分が最高七五・五三パーセントから最低六四.八七パーセントの範囲内に分布しており、その割合は比較的近似していること、また右同業者の一般経費の売上金額に占める割合は昭和五三年分が最高一二・〇四パーセントから最低四・八五パーセント、昭和五四年分が最高一〇・七四パーセントから最低七・七二パーセント、昭和五五年分が最高一三・三〇パーセントから最低六・九六パーセントの範囲内に分布しており、その割合の差は最も大きい昭和五三年分でも二・五倍未満であること、被控訴人は右報告に基づき、右七名の各売上原価の額を各売上金額で除して得た割合の平均値によって昭和五三年分七二・三七パーセント、昭和五四年分七三・三三パーセント、昭和五五年分七一・一〇パーセントの原価率を算出し、一般経費率についても右七名の各一般経費の額を各売上金額で除して得て割合の平均値によって昭和五三年分八・四パーセント、昭和五四年分九・〇〇パーセント、昭和五五年分九・八一パーセントの同業者の一般経費率を算出し、これによって控訴人の所得金額を推計したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、右七名の同業者は、調査対象地域を熱海税務署及びその近隣の三税務署管内に限ったことにより控訴人と同一の経済圏において営業をするものであること、右通達に示された前記aの条件により昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税について正確な申告をしたものであること、同bの条件により控訴人と著しく異なった規模の営業を営む者ではないこと、同cの条件により販売商品の構成が控訴人の営業と類似していることを認めることができる上、右同業者の抽出についてはその作業の経過に照らし作為の介入するおそれはなく、現実に存在する控訴人の同業者の中から右通達に示された条件を満たすものが抽出されており、しかもその中には推計の資料とするのに不適当な特殊な営業の規模、態様の同業者は含まれていないものということができる。また、抽出された同業者の数に照らし、通常予想される個別的な差異は平準化されているものということができるから、右同業者から得られた原価率及び一般経費率を控訴人に適用することを不適当とすべき特殊な事情がない限り、右の同業者の営業の形態が控訴人のそれと類似していることが具体的に立証されなくても、右原価率及び一般経費率によって控訴人の所得金額を推計して差し支えないものというべきであり、甲第一〇号証、第一一号証の一ないし一〇、第二六ないし第二八号証の各一ないし三、前掲証人北沢君代の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によっては右の特殊の事情の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3) 事業専従者控除について

前掲乙第一二号証、成立に争いのない甲第七ないし第九号証及び弁論の全趣旨によれば、事業専従者控除額は、本件各係争年分とも四〇万円と認めるのが相当である。

(4) 事業所得金額について

以上の事実に基づき、本件各係争年分の控訴人の事業所得金額を計算すると、その金額は次の算式に従い、<1>ないし<3>のとおりの金額となる。ただし、昭和五三年分の価格変動準備金の繰戻額が一七万円であることは当事者間に争いがないので、昭和五三年分の総収入金額には右金額を加算すべきである。

売上原価÷原価率(昭和五三年分については更に右一七万円を加算する。)=総収入金額

総収入金額(昭和五三年分については右一七万円を加算する前のもの)×同業者の一般経費率=一般経費

総収入金額-売上原価-一般経費-特別経費-事業専従者控除額=事業所得金額」

14  原判決四四枚目表一〇行目、同裏四行目、同七行目、同四五枚目表一行目、同四行目、同九行目、同裏一行目の「額」を「金額」と、同表一〇行目の「認定所得額」を「所得金額」と、同末行の「以上認定、判断したところにより」を「以上によれば」と改め、同裏三行目、同六行目、同七行目、同九行目の「所得」の次に「金額」を加え、同末行の「認定所得額」を「所得金額」と、同四六枚目表一行目の「額」を「金額」と改め、同三行目から一〇行目までを削り、同裏二行目の「所得額を下回る所得額」を「に係る所得金額を下回る所得金額」と改める。

二  以上の次第で、本件各更正処分の取消しを求める控訴人の訴えのうち控訴人の確定申告に係る総所得金額を超えない所得金額の部分の取消しを求める部分の訴えを不適法として却下し、その余の請求を棄却した原判決は相当であり(ただし、原判決主文第一項は主文のとおり更正する。)、本件控訴は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊地信男 裁判官 吉崎直彌 裁判官 大谷禎男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例